新型コロナウイルス感染妊婦の分娩管理

【AJOG. Apr 2020】

Ashokka, Balakrishnan, et al. "Care of the Pregnant Woman with COVID-19 in Labor and Delivery: Anesthesia, Emergency cesarean delivery, Differential diagnosis in the acutely ill parturient, Care of the newborn, and Protection of the healthcare personnel." American Journal of Obstetrics and Gynecology (2020). 

P: なし
E: なし
C: なし
O: なし

結果のまとめ

・現時点のデータでは、妊婦が新型コロナウイルス感染症の罹患しやすさは非妊婦と比べ高くはなく、感染した場合に重症化しやすいということもない。
・147例の感染妊婦を調査した (WHOと中国の合同報告書) 研究では、8%が重症 (呼吸数 >30回/分または 安静時酸素飽和度 <93%、PaO2/FiO2 <300mmHg) で、1%が重篤な状態 (人工呼吸器を要する状態やショック状態など) だった。

<胸部画像>
・妊娠中に2.3-5.8mGyの造影胸部CTをおこなった15人の感染妊婦の報告では、臨床的に軽症の患者全員に肺炎像が認められていた。妊娠中に胸部CTを撮影する場合は、胎児への放射線被曝を軽減するために腹部遮蔽が推奨される。

<感染予防>
・分娩時では、患者がいきむ際の呼気からウイルスが拡散される可能性がある。そのため、早い段階で硬膜外麻酔による疼痛管理を検討すべきである。
また、分娩に立ち会うスタッフには個人防護服 (PPE) の着用が推奨される。現時点では、目の保護、N95マスク、防滴ガウン、手袋、手指消毒があれば感染予防として十分だと考えられる。

<感染患者の分娩管理>
・来院時には母児の状態からトリアージを行う。
・差し迫った危険がある場合は、緊急帝王切開術を実施しなければならない。
・新型コロナウイルス感染症を想定した状況では、帝王切開術の方が感染予防処置が広く行いやすいという理由から、帝王切開術の適応を通常より低く設定すべきである。

<感染患者の緊急帝王切開術の麻酔について>
低酸素状態 (SpO2<93%以下)の場合
・全身麻酔での帝王切開術が必要となる。
・挿管はカフ付きチューブでのrapid sequence induction (RSI)が推奨される。

低酸素を認めない (SpO2 94%以上) の場合
・エアロゾル発生と感染を予防するために脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔が推奨される。

<重症患者の管理について>
・SpO2が94%未満の場合は、診療方針を早期に決定しなければならない。

<産科病棟の管理について>
・お見舞いや分娩立ち会いのスタッフ数の制限を行う。

<出生児の管理について>
・感染が確認された妊婦では、臍帯結紮遅延や母子接触は推奨されない。
・現時点では授乳の安全性に関する情報は少ない。

まとめ
新型コロナウイルス感染症の感染症患者が増加するなかで、妊娠中の感染者も増加する可能性がある。経腟分娩においても帝王切開術においても、妊婦や医療者には、乗り越えるべきさまざまな課題が立ちはだかる。現時点で可能なエビデンスを用いて、これまでの妊婦の診療を変化させ新型コロナウイルス感染症に対応していく必要がある。

原文へのリンク

Ayako Shibata Written by:

淀川キリスト教病院 産婦人科専門医。 2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から女性や母親を支援する職業になりたいと産婦人科医を専攻する。 著者:女性の救急外来 ただいま診断中!(中外医学社,2017)、総合医療雑誌J-COSMO編集委員。